menu

熱があり、尿の出が悪い等の症状に猪苓湯(ちょれいとう)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

「猪苓湯は熱を下げて、尿の通りをよくします」

処方のポイント

利尿作用の猪苓・茯苓・沢瀉、急性の熱を下げる滑石、潤いを確保する阿膠で構成。膀胱炎等で体内に熱があり、尿の出が悪い等の症状に適応。口渇し水を欲しがるが尿が出ない、尿量が少なく色も濃くにおいも強い、帯下が多くにおいも気になる、排尿時痛や残尿感等にも応用。淡い甘味。

猪苓湯が適用となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

尿量減少、小便難、口渇を訴えるものの次の諸症:尿道炎、腎臓炎、腎石症、淋炎、排尿痛、血尿、腰以下の浮腫、残尿感、下痢。

漢方的適応病態

水熱互結(湿熱)。すなわち、発熱、熱感、下痢とともに口渇、尿量減少がみられ、いらいら、不眠などを伴うことがある。また濃縮尿とともに血尿、下腹部痛、排尿痛なども生じることが多い。

〇より深い理解のために

水熱呉結とは、主として全身の炎症による水分の吸収、排泄の障害で、五苓散で述べたような水分の偏在や吸収障害による下痢が見られ、同時に循環水分量の減少に伴う口喝、尿量減少が起こる。元来陰虚や血虚の体質のものが吸収障害を起こすと、陰虚血虚の程度が強くなり、いらいら、ほてり、不眠などの興奮症状が明らかになる。

猪苓湯の組成や効能について

組成

猪苓9茯苓9沢瀉9滑石9阿膠9

効能

利水清熱・養陰

主治

水熱互結・陰傷

〇利水清熱:水湿と熱邪を同時に除去する治法である。

〇養陰:猪苓湯では主に水液の分布障害で生じた陰津不足に用いる治法である。

〇水熱互結:水湿と熱邪が入りまじって、下焦に停滞した病証を示す。

〇陰傷:主に水湿と熱邪の停滞によって、津液の正常な分布が阻害され、損傷した病態を示す。

解説

猪苓湯は利水・清熱作用を有し、水邪と熱邪が結びついて下焦に停滞した病証に用いる処方である。水湿の停滞と陰分の損傷という相反する病態が同時に存在する複雑なもので、養陰作用をもつ阿膠も配合されている。

適応症状

◇発熱

侵入してきた邪気が体内の正気と抗争することによっておこる症状である。熱邪が主であるときは、発熱の症状が強く現れる。

◇小便不利

熱邪が下焦の膀胱に停滞し、水湿と入りまじって蘊結すると、膀胱の気化機能が障害されて、排尿障害がおこる。

◇排尿痛・頻尿・血尿

水熱が団結して尿路を塞ぐと、排尿痛が現れる。熱は急を主るので頻尿となり、熱邪が血絡を損傷すると血尿が出る。

◇ロ渇

口渇が現れる原因には、以下の2つが考えられる。

①熱邪が、体内の津夜を消耗する。

②水湿と熱邪の停滞によって津液の正常な分布が齟害されて、咽を潤すことができない。

◇舌紅・苔膩

紅舌は熱邪を示し、膩苔は水湿の停滞を示す。

◇脈細滑数

細は陰津不足を、滑は水湿を数は熱邪を示す脈象である。

猪苓、茯苓、沢瀉は利水薬である。利水作用の最も強い猪苓が主薬である幣はその健牌作用によって水湿の氾濫を抑制する。沢瀉には清熱作用もあり、水熱の互結に対して効果的である。滑石はその寒性によって清熱し、熱邪による淋証(排尿痛、頻尿など)によく用いられる。また同時に滑性を有し、利水作用もある。阿膠は滋潤性をもつ滋陰薬なので、体内で不足している陰、津液を補うとともに、利水薬の使用によって、陰津が消耗されてしまうのを防ぐこともできる。さらに、止血作用が強いので、血尿を治療することもできる。

臨床応用

◇淋証

水湿を通利する作用が優れているので熱邪と水湿の停滞による各種の淋証に用いることができる、特に膀胱炎、血尿、前立腺肥大などの下焦病症に適している。

 〇急性期の熱邪が盛んなとき+「五淋散」(清熱通淋)

                                または+「竜胆瀉肝湯」(清熱瀉火、利湿)

◇下痢

腹痛、発熱、口渇、舌紅苔黄腻などの湿熱性の下痢に適している、利水作用によって、便を固めることができる。

 〇食欲不振、悪心など(脾胃不運)をともなうとき+「半夏瀉心湯」(和胃、清熱)

〇陰液を補いつつ水熱を除去

尿量減少や口渇を伴う腎泌尿器疾患などに活用

漢方処方には面白い特徴があり、薬理作用が同じでも、上半身で効果を発揮するものがあれば、下半身で薬効を表すものがある。また、病気の初期には有効だが、進行すると効かなくなる処方も存在する。処方判断の重要性、ひいてはその前段階である弁証(患者の証を判断すること)を正確に行うことの責任の重さをいつも感じている。

猪苓湯(ちょれいとう)は、水熱が互結にけつ)し、主に下半身で症候を表す証に用いる処方である。水湿の除去と陰液の補充という、2つの作用を併せ持つ良方である。

どんな人に効きますか

猪苓湯は「水熱互結(すいねつごけつ)、熱傷陰津(ねつしょういんしん)」証を改善する処方である。

水邪(湿邪)は病邪の一つであり、粘性が強く、動きが鈍い。これが熱邪と結び付くことにより、「水熱互結」証となる。根本には五苓散(ごれいさん)が適応する「水湿」証があり、水分の吸収や排泄、代謝が滞り、過剰な水分が体内に滞っている。そこに少し熱邪が重なることにより、この証となる。熱証の弱い「湿熱」証に近い。

この証になると、正常な体液(津液[しんえき])が体の隅々まで行き届かないため、尿量の減少や口の渇き、体の熱感、発熱などが生じる。また水湿は、上逆すれば肺に達し、咳嗽を引き起こす胃を攻めれば吐き気や嘔吐が生じる。下降して大腸に至れば下痢となる。

水熱互結の状態が進み、熱邪が陰液(津液)を消耗し、陰虚の程度が強くなると、「熱傷陰津」証となる。虚熱の影響により、胸部のざわざわとした落ち着かない不快感(心煩)や、いらいら、不眠が表れる。

なお、この証の水湿は下焦に停滞しやすく、上焦に及ぶことは少ないので、水邪が多い割には水を飲みたがる。さらに水邪が下焦で熱邪と合わさって膀胱機能を阻害すると、排尿痛、残尿感、濃い色の尿、血尿、時に頻尿、さらに下腹部痛、下腹部の膨満感、血便、むくみなどを生じる。舌は赤く乾燥しており、白または微黄色の舌苔が付着する。舌苔は厚くねっとりとしている場合もある。

臨床応用範囲は、膀胱炎、尿道炎、腎炎、腎盂炎などの尿路感染症、尿路結石、前立腺肥大、前立腺炎、胃腸炎、潰瘍性大腸炎、ネフローゼ症候群、不眠症などで、水熱互結、熱傷陰津の症候を呈するものである。

どんな処方ですか

配合生薬は、猪苓、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、阿膠備きょう)、滑石(かっせき)の五味である。

君薬の猪苓は膀胱、腎経に入り、水湿を除去し(利水滲湿[りすいしんしつ])、清熱する。沢瀉と茯苓は臣薬として猪苓の利水滲湿作用を助ける。沢瀉は寒性で、発熱や膀胱炎などの虚熱の炎症によい。茯苓は胃腸機能を調え(健脾)、胃腸に偏在する水邪(停水)をさばき、気の流れを良くする。猪苓と茯苓の組み合わせには、水を下降させて口渇を癒し排尿を促す働きがある。猪苓、沢瀉、茯苓の三味で腸管内や組織の水分を血中に引き込み、尿量減少や下痢を改善する。尿路への刺激も緩和される。

佐薬の滑石には甘寒(かんかん)の性味があり、尿の通りを良くする利水作用と、清熱の働きを持つ。同じく佐薬の阿膠には乾燥を潤して陰液を補う(潤燥養陰[じゅんそうよういん])働きがある。補血作用により心煩や不眠を解消し、止血作用もある。

以上、猪苓湯の効能を「利水滲湿、清熱養陰」という水湿を除去するが陰液を傷つけることはなく、滋陰するが水湿を余分に増やすこともない、5つの生薬の相互作用により、水湿を排し、邪熱を冷まし、陰液を補う。水湿の除去と陰液の補充という、一見矛盾している作用をバランスよく併せ持つ処方なのである。

猪苓湯は五苓散と組成が似ており、五苓散(沢瀉、猪苓、茯苓、白朮[びゃくじゅつ]、桂枝の五味)の白朮と桂枝を、阿膠と滑石に入れ替えると、本方になる。作用も似たところがあり、共に利水作用が強い処方なので、尿量減少や口渇に有効であるしかし、五苓散を使う証(「水湿」証)では、水邪が熱邪と結び付くほど体内に深く侵入していない。従って、まだ浅いところにある病邪を、桂枝を用いて追い払うような組成となっている。それに対し、本方は、滑石で清熱し、阿膠で養陰して「水熱互結、熱傷陰津」証を治療していく生薬構成となっている。猪苓湯は、五苓散を使う証に加えて軽度の炎症や陰虚による熱証がある場合に使う。なお、桂枝と白朮は揮発性の成分が多くて刺激的であるため、それらがない猪苓湯の作用は温和である。

猪苓湯のメーンは利水である熱邪が強く盛んな場合や、陰液の損傷が激しい場合は使わない。

尿路系の炎症が強い場合は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を合わせ飲む、尿路結石などで排尿痛が強い場合は芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を併用する。陰虚の程度が強い場合や、血尿が顕著な場合、あるいは貧血症状があるときは、四物湯(しもつとう)を合わせる。慢性的に膀胱炎を繰り返す場合は、四物湯や八味地黄丸(はちみじおうがん)などを、患者の証に合わせて併用する。水邪よりも熱邪が強い場合は、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)や茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)を検討する。

もともとは、感冒や感染症などの急性熱性疾患(傷寒)が体の奥に侵入し、水湿と結び付いて水熱互結証となった病態に用いた処方である。『傷寒論』の弁証法「六経(ろつけい)弁証」は、太陽・少陽・陽明・太陰・厥陰(けついん)・少陰の六経の間を病邪が進みつつ病気が進行・変化していくと考えるが、猪苓湯は、病邪が体内に侵入して陽明あるいは少陰病の段階に入り、尿量減少などの症候があるときに使ってきた。

こんな患者さんに

〇膀胱炎です。トイレが異常に近く、排尿時に痛みがあります。尿は少しずつしか出ません

残尿感もあり、用を足しても不快だという。病院で抗菌薬を処方されているが改善しない。下焦の水熱互結とみて猪苓湯を使用。2カ月ほどで完治した。弁証が正しければ、猪苓湯は原因菌の有無にかかわらず有効である。

 

〇下半身がむくみます。ほてりや口の渇き、胸の不快感もあります

軟便気味で、排便時に肛門に少し灼熱感がある。熱証がみられるので水熱互結、熱傷陰津と考えて本方を使用。半年ほどかけて少しずつ改善した。口渇や軟便もよくなった。

用語解説

1)津液が損傷した証を「陰虚」証という。熱とバランスをとっていた津液が減るために、心煩、不眠などの熱証が表れてくる。これを「虚熱」という。逆に、熱そのものに勢いがある熱証は、実熱という。

2)人体を大きく3つに分け、胸から上を上焦、真ん中を中焦、臍(へそ)から下を下焦という。また、これらを合わせて三焦と呼ぶ。

3)膀胱経、腎経は、それぞれ経絡の一つ。経絡とは、気・血・津液が体内を運行する通路のこと。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

*

ピックアップ記事

  1. 2017-4-4

    憂鬱・不安感がある方に効果的な漢方薬4種

    原因が考えられない場合が問題 気分が重くて暗いのが、憂鬱感である。そして、精神に安定を…
  2. 2017-3-2

    生理不順に効果のある9種類の漢方薬

    生理不順は女性の宿命的な苦しみ 生理不順、生理異常、あるいは月経異常といわれるものには…
  3. 2017-2-28

    【求人】国際統合治療協会が薬剤師を募集

    国際統合治療協会では薬剤師の資格を生かして、クリニックにて四診を用いて体質におけるアドバイスを 行っ…
  4. 医者

    2017-1-27

    漢方医学の基礎、基本的な考え方とは

    漢方医学の基本的な考え方には、液体生理学、液体病理学といわれる「気・血・水」「五臓六腑 」「経絡」「…
  5. 2017-1-18

    冷え性チェック!体質から漢方的に自宅でできる改善方法を紹介

    舌でわかる!冷え性体質チェック ビールを飲みすぎた翌日に、舌のコケが厚くなったり、風邪をひいた…
ページ上部へ戻る