「大承気湯(だいじょうきとう)は頑固な便秘によく使われます」
処方のポイント
余剰な熱を瀉下作用で大便により体外排出する大黄を中心に、大黄の働きを助ける芒硝、腹部膨満を除き排便を助ける枳実・厚朴で構成。お腹が硬く張り、大便が乾燥気味で硬くコロコロした便秘等に適応する。苦味で、温服が効果的。
目次
大承気湯が適応となる病名・病態
保険適応病名・病態
効能または効果
腹部がかたくつかえて、便秘するもの、あるいは肥満体質で便秘するもの常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食あたり。
漢方的適応病態
熱結。すなわち、陽明病腑実・裏実熱で、高熱、発汗、転々反側、腹部膨満感、腹痛、圧痛が強い、便秘、口渇、尿が濃い、甚だしいときには意識障害、うわごと、興奮状態などを呈する。
大承気湯の組成や効能について
組成
大黄12厚朴15枳実15芒硝12
効能
峻下熱結
主治
裏実熱証
◎峻下熱結:作用の強い瀉下薬によって、胃腸に停滞している熱をともなう硬便(熱結)を通じさせる治法である。
◎裏実熱証:体内(胃腸=裏)に実熱が存在する病証をいう。
解説
大承気湯は胃腸に実熱が停滞した病証(陽明腑実証)に用いる処方である。「承知とは胃腸の気を順調に下降させて閉塞状態を通じさせるという意で、「大」は作用が強い意である。大承気湯は重症に用いることが多く、薬の使用量も多めになっているが、病態、体質、年令などに合わせて調節する必要がある。
適応症状
◇大便秘結
実熱と腸管の積滞によって、腑気の通じが悪くなったために現れる便秘症状である。六腑は通じている状態が健常であり、胃腸が不通であれば便秘となる。
◇発熱
陽明胃経は特に気血が多い経絡である。月経の経気と熱の邪気が激しく抗争するため高熱になる陽明の気が最も盛んになる申酉の時間(夕方の3~7時)に発熱は頂点に達し、これを「日晡潮熱」という。
◇煩躁
イライラ、躁動不安、ひどい場合は譫語(うわごと)などの症状が現れる。これらは燥熱の邪気と腸管の濁気が一緒に上昇して、心の神明を乱すことによって生じる症状である。
◇熱結旁流
糟粕(糞便)が鬱滞し、水っぽい物を下痢する症状(下痢清水)を示す。腸管に停滞した燥熱が津液を切迫すると、津液は乾燥した便の傍を腸壁に沿って流れ下る。病気の根本は実熱にあり、下痢は副次的な症状である。
◇腹痛・腹脹
便が胃腸内に積滞して腑気の流れが滞ると、腹脹と腹痛が見れる。
◇舌苔焦黄
焦苔は体内の津液不足を示し、黄苔は熱盛を示す。
◇脈滑実
滑脈は胃腸に有形の積滞が存在していることを示し、力のある実脈は体力が衰えておらず、邪気も盛んであることを示している。
大承気湯の主証は「痞・満・燥・実」の四字で表現できる。
大黄は主薬で、苦寒の性味をもち、苦味は下降作用があり、寒性は泄熱作用がある。通便泄熱の作用が強く胃腸の積滞を取り除く。瀉下通便作用を増強するため、生の大黄を「後煎」することが多い。また、大黄には活血補の効能もある。芒硝も瀉下薬に属するが鹹寒の性味をもち、鹹味で、軟堅通下(堅い便を軟らかくする)し、鹹寒の性質によって津液を生む。津液が増えれば燥硬の便が排出しやすくなる。(増水行舟ー川の水を増やして舟を動かす)、大黄と芒硝を配合することによって通便散結の効能はより増強される。厚朴と枳実は強力な理気薬である。気の流れが悪いと便秘症状が悪化し、便秘すると気滞の症状は強くなる。そこで腸内の積滞を除去するために理気薬を配合する、厚朴は強い散満作用とともに化痰作用があるので、苔が厚く、痰湿が停滞した満症状に適している。枳実は下降作用が厚朴より強く、直接便秘を除去する。
臨床応用
◇陽明腑実証
「痞・満・燥・実」の症状が顕著な陽明腑実証に最も適した処方である。
発熱、腹痛、腹脹、便秘などが重点目標となる症状である。急性腸閉塞、急性虫垂炎、急性胆囊炎、急性胰臟炎などに用いる。
◎発熱が高いとき+「白虎湯」(清熱生津)
◎腹痛が強いとき+「芍薬甘草湯」(緩急止痛)
◎胆囊、胰臓の疾患に+「小柴胡湯」(疏肝清熱)
◎虫垂炎のとき+「大黄牡丹皮湯」(活血消腫)
◇便秘
体方は瀉下作用が中心となっており、便秘一般にも用いられる。清熱作用があるので実熱の便秘に適しているが、手術後の腹脹、便秘にも一的に使用することができる。