「大黄牡丹皮は強い瀉下作用があります。妊産婦は注意してください」
処方のポイント
蓄積された熱を大便により体外排出する瀉下作用の大黄・芒硝を中心に、血流の停滞を改善する桃仁・牡丹皮、排膿作用をもつ冬爪子で構成。便秘だけではなく、生理痛や下腹部痛等にも適応。抗炎症作用も強く、虫垂炎や尿路感染症等にも応用。強い苦味。
目次
大黄牡丹皮が適応となる病名・病態
保険適応病名・病態
効能または効果
比較的体力があり、下腹部痛があって、便秘しがちなものの次の諸症:月経不順、月経困難、便秘、痔疾。
漢方的適応病態
腸癰(虫垂炎など)。すなわち、発熱、腹痛(特に右下腹部)、圧痛あるいは抵抗、便秘などがあり、甚だしければ身体を折り曲げ下肢を屈曲させるもの。
大黄牡丹皮の組成や効能について
組成
大黄9牡丹皮5桃仁6冬瓜仁15芒硝5
効能
瀉熱破瘀・散結消腫
主治
瘀熱の停滞・癰腫
〇瀉熱破瘀:体内に停滞している熱邪と瘀血を取り除く治法である。瀉熱は清熱より作用が強く、破瘀は化瘀より作用が強い。
〇散結消腫:腸内の鬱結や腫塊を取り除く治法である。
〇癰腫:局所的に赤く腫れて熱をもち、疼痛をともなう化膿性炎症をいう。
解説
大黄牡丹皮は瀉下、清熱、活血の作用があり、腸癰を治療する代表的な処方である。腸癰とは腸の癰腫のことで西洋医学の急性虫垂炎などに相当する。主に血瘀、気滞、湿熱が病因となっておこる病証に使用する。
適応症状
◇右少腹痛
少腹部とは下腹部の両側を指している。腸癰の多発部位は右少腹部である。熱結・気滞、血瘀によって、腑気の流れが悪くなったために生じる症状である。「不通則痛」。
◇柜按
痛みのために腹部を按じられるのを拒むことをいう。熱邪と瘀血(実邪)が滞っていることを示す症状である。
◇痞塊
腹腔内の積塊をいう。痞は気滞によって形成され塊は瘀血によって形成される。
気滞血瘀にさらに熱邪が加わると、血肉が腐敗して化膿する症状が現れる。
◇発熱・悪寒
体内の正気と邪気が激しく抗争することによって発熱する。邪気が営衛の流れ阻害すると悪寒がおこる。
◇舌紅・苔黄
熱性疾患であることを示す舌象である。
◇脈滑数
滑脈は湿滞の存在を示し、数脈は熱を示す。
大黄牡丹皮では大黄のもっている清熱解毒、瀉下通便、凉血破瘀の各作用すべてが腸の熱、瘀血、積滞を取り除くために利用されている。通便作用によって積滞を取り除くが通便が本方の主目的ではないので、後煎ではなく、他の薬と一緒に煎じてよい。牡丹皮は優れた凉血作用があり、腸癰の原因である血熱、血瘀に対して効果がある。芒硝は軟堅散結の効能によって、腸の鬱滞を散消し、大黄を助ける。桃仁は破血散瘀薬で、大黄と牡丹皮を補佐して、腸の瘀血を取り除く。桃仁は種子で潤いがあり、大黄の瀉下通便作用を増強できる。冬瓜仁には排膿消癰の特徴があり、腸癰の治療に不可欠の要薬である。
臨床応用
◇腸癰
瘀血内滞、湿熱隨の症状(西洋医学の虫垂炎に相当する疾病)に用いられる。腹痛、発熱、脈滑数が弁証の要点である。膿形成の有無にかかわらず使用できる。腸癰には蒲公英、敗醬草、金銀花、紫花地丁、紅藤などの清熱解毒薬を多く配合する。
高熱、舌紅苔黄(熱盛)のとき+「黄連解毒湯」(清熱解毒)
腹脹など(気滞のとき+「逍遥散」(疏肝理気)
または+川楝子・木香(理気)
腹痛が強く、痞塊がある(瘀血)とき+「当帰芍薬散」(養血活血、止痛)
または+当帰、赤芍薬(活血去瘀)
熱証がさほど顕著でないとき+「桂枝茯苓丸」(活血去瘀)
◇腹痛
急性、重症の腸癰以外に、一般の腹痛にも用いられる。薬性が強いので、便秘・腹脹など実に属する病証に適している。手術後の腸の癒着、胆囊炎による腹痛などにも用いられる。
◇内性器炎
活血薬が多く配合されているので、婦人科疾患にも適している。例えば少腹部の疼痛、しこり、便秘をともなう内性器炎、瘀血による月経不順月経痛などに用いられる。
注意事項
①冷え、舌淡苔白などの寒性あるいは寒湿腸廱に用いてはならない。
②中毒症状が現れている虫垂炎には適しない。
③活血破瘀、瀉下通便の作用が強いので、妊婦には禁忌とする、虚弱体質の人および老人には慎重に用いなければならない。