別名:梔子(しし)・水梔子(ずいしし)/くちなし(口無)
日本、台湾、中国に分布するアカネ科の常緑低木、コリンクチナシ(㊥山梔Gardeniajasminoides)の果実を用いる。果実が秋を過ぎても口を開けないことから「口無し」と呼ばれ、実の形が「巵」という底の丸い酒杯に似ているため梔子の名がある。中国ではコリンクチナシの果実を梔子といい、クチナシG.jasminoidesvar.frandifloraやコクチナシG.jasminoidesvar.radicansなどの大型で長めの果実をとくに水梔子という。水梔子は、一般には染料に用いて薬としては劣るものとされている。日本でもクチナシは飛鳥時代から黄色染料として知られ、無毒のためにきんとんや沢庵漬など食品を染めるのにも用いられている。果実にはイリドイド配糖体のゲニポシド、ガルデノシド、カロテノイド色素のクロシンクロセチン、そのほかシトステロール、ノナコサン、マンニトールなどが含まれている。近年、クロセチンは目の毛様体に作用して、眼精疲労を改善し、老眼に効果があると期待されている。山梔子の煎液には利胆、鎮静、降圧作用、抗真菌作用があり、またゲニポシドには利胆作用や鎮痛作用がある。漢方では清熱燥湿、清熱解毒・除煩・退黄の作用があり、感染症や炎症、煩躁や黄疸、出血などに用いる。また外用薬として打撲や捻挫に生山梔子の粉末を、痔の炎症に山梔炭を用いる。
目次
①清熱作用
熱症状や炎症症状に用いる。のぼせやイライラ、鼻血などの熱症状に黄連・黄柏などと配合する(黄連解毒湯)。慢性の湿疹など体内に炎症力特続しているときにはさらに四物湯を加える(温清飲)。一貫堂では解毒証体質の改善に温清飲を基本とした柴胡清肝湯・荊芥連翹湯・竜胆瀉肝湯を用いる。蓄膿や慢性鼻炎に辛夷・枇杷葉などと配合する(辛夷清肺湯)。慢性気管支炎などで粘稠痰のみられるときには桔梗・貝母などと配合する(清肺湯)。顔面の痤瘡などに防風・荊芥などと配合する(清上防風湯)。膀胱炎などには茯苓・滑石などと配合する(五淋散)。
②除煩作用
煩躁や不眠に用いる。身熱があって胸の中が苦しく、睡眠が十分得られないときに豆豉と配合して用いる(梔子豉湯)。胸が痞えて苦しいときには厚朴・枳実と配合して用いる(梔子厚朴湯)。更年期障害による冷えのぼせや焦燥感には当帰・芍薬などと配合する(加味逍遥散)。虚弱体質で出血や不眠傾向のみられるときには茯苓・人参などと配合する(加味帰脾湯)。
③退黄作用
黄疸に用いる。急性肝炎による黄疸に茵蔯蒿や大黄と配合する(茵蔯蒿湯)。
処方用名
山梔子・梔子・山梔・山枝・枝子・炒梔子・焦梔子・黒梔子・山梔皮・山梔仁・サンシシ
基原
アカネ科RubiaceaeのクチナシGardeniajasminoidesEllis、またはその他同属植物の成熟果実。球形に近いものを山梔子、細長いものを水梔子として区別する。
性味
苦、寒
帰経
心・肺・胃・三焦
効能と応用
方剤例
清熱瀉火・除煩
①梔子豉湯
外感熱病の胸中鬱熱で胸中が熱苦しく不快・不眠などを呈するときに、透熱散邪の香豉と用いる。
②黄連解毒湯
三焦実火の高熱・意識障害・うわごとなどには、黄芩・黄連・黄柏などと使用する。
③竜胆瀉肝湯
肝火による目の充血や腫脹疼痛・口が苦い・口乾・胸が熱苦しいなどの症候には、菊花・黄芩・竜胆草などと用いる。
清熱利湿
①茵蔯蒿湯・梔子柏皮湯
湿熱の黄疸に、茵蔯・黄柏・大黄などと用いる。
②五淋散・八正散
膀胱湿熱による排尿痛・排尿困難・尿の混濁に、生地黄・車前子・木通・滑石・沢瀉などと使用する。
清熱涼血・止血
梔子金花丸・十灰散
血熱妄行の吐血・鼻出血・血便・血尿・皮下出血などに、大黄・黄柏・黄連・茅根・側柏葉などと使用する。
清熱解毒
清上防風湯・柴胡清肝湯
熱毒による瘡癰(皮膚化膿症)に、黄連・黄芩・金銀花・連翹などと用いる。
その他
打撲・捻挫による腫脹・疼痛や火傷・熱傷に、生山梔子の粉末を外用する。
臨床使用の要点
山梔子は苦寒で清降し緩徐に下行し、心・肺・三焦の火を清して利小便し、気分に入って瀉火除煩・泄熱利湿するとともに、血分に入り涼血止血・解毒に働く。熱病の熱蘓胸膈による心煩懊憹、熱鬱血分による吐衄下血・瘡癰熱毒、湿熱蘊結による淋閉黄疸などの要薬である。
参考
①生用すると清熱瀉火に、炒用(炒梔子・焦梔子・黒梔子)すると凉血止血に働く。姜汁で炒すと止嘔除煩の効能が得られる。
②外熱には皮(山梔皮)を、內熱には仁(山梔仁)を使用するのがよいとされるが、現在では全体を用いている。
用量
3~9g、煎服。外用には適量。
使用上の注意
苦寒で脾陽を損傷しやすく、緩瀉の効能をもつので、脾虚の軟便や下痢傾向のものには用いない。