日本人に多いジヌシ(痔主)
日本人ほど痔の多い人種はいない。これは、畳の上での生活,・日本式便所・腸が長い体質・食事などと大いに関係があるだろう。痔というのは、ふつう痔核(じかく)(いぼ痔)をさすが、ほかにも、裂肛(れっこう)(切れ痔)、肛門周囲炎(はれ痔)、痔ろう(あな痔)などがあり、脱肛というのは痔核が進んで肛門の外へ脱出した状態のものをいう。
目次
痔核の症状
いぼのようなはれものが、肛門に一個または数個できて、不快感・圧迫感・異物感をおぼえ、排便時に痛む。ときには、はれもの(腫瘤(しゅりゅう))が破れて出血することもある。
裂肛の症状
肛門粘膜の放射状のひだが、排便時にさけてしまうものである。灼熱感(しゃくねつかん)や排便時の痛みがあり、痛みがはげしければ、肛門けいれんや尿閉を起こすこともある。
肛門周囲炎の症状
肛門周囲の皮下や深部に灼熱感・腫脹・痛みが起こり、そのために、排便・起座・歩行が困難になる。
痔ろうの症状
痛み・出血はほとんどないが、肛門のふちからあまり離れていない部分に膿の出る穴(ろう孔)ができ、たえず膿が出て、周囲が湿って汚れる。ときには、穴がふさがって膿がたまり、はれて痛むことも。痔の中では最も難物。
脱肛の症状
軽いものは排便のさいのいきみで脱出するが、すぐに元にもどる。症状が進むと、自然にはもどらない。血膿の分泌物が出て下着を汚し、苦痛もたいへんなものがある。
漢方で一般的に使われる乙字湯(おつじとう)
あまり人に見せたくない患部なので、病院に行くのも気おくれしがちだが、痛みがひどい・出血が多い・顔色がわるいというような場合は、必ず専門医の診察を受ける。勝手な素人療法は危険で、漢方を用いる場合も、あくまでも専門家の指導のもとに行う。根治には時間がかかる。
痔核や裂肛には、次のような処方を使う。
痔の漢方薬
乙字湯
痔に最もよく使われる。出血・痛みをとめるだけでなく、かるい脱肛にもよい。
桃核承気湯
体力はあるが、瘀血が強い人に。
芎帰膠艾湯
出血のため貧血し、衰弱した人に。
十全大補湯
冷え症、虚弱体質で、出血のために顔が蒼白になり、疲労しやすいときに用いる。
甘草湯
痛みの強いときに。脱肛のときにもよい。できれば、この湯液をあたためて、患部を洗ったのち、温湿布すると効果的である。
脱肛には、以上に記した乙字湯・甘草湯のほか次のような処方を使う。
補中益気湯
虚弱体質で、皮膚がたるみ、内臓下垂などによる脱肛に効く。
当帰芍薬散
冷え症で血色すぐれず、よく脱肛して痛む人に。とくに何度も分娩した女性に。
痔ろうには、次のような処方がある。
防風通聖散
体力があって肥満し、便秘ぎみの人の、結核性ではない痔ろうに。
麻杏甘石湯
結核性で、気管支炎を併発した人。
紫雲膏
患部に貼用する膏薬である。他の処方と兼用すること。
民間療法
梅干しの肉を胡麻油でよく練り、脱脂綿にのばして局部へ貼るのは、痔一般に用いられる。乾いたら取り替える。梅干しだけ、あるいは胡麻油だけという方法もあるが、数多い痔の民間療法の中で、これがいちばん確実なようである。