「人参養栄湯(にんじんようえいとう)は気が疲れ果てて眠れないときによく使われます」
処方のポイント
消化器と呼吸器の補強と血行改善に働く十全大補湯の兄弟処方で、精神を安定化する遠志・五味子・茯苓が新たに加わった構成。疲労困憊し、心身ともに疲れ果てて眠れない等の症状に適応する。甘辛味で、温服が効果的。
目次
人参養栄湯が適応となる病名・病態
保険適応病・病態
効能または効果
病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血。
漢方的適応病態
気血両虚・虚寒。すなわち、健忘、眠りが浅い、動悸などの心血虚の症候や、自汗、息切れ、咳嗽、喀痰などの肺気虚の症候に、寒け、四肢の冷えなどの虚寒の症候を伴うもの。
人参養栄湯の組成や効能について
組成
白芍薬9当帰3熟地黄2五味子2遠志2黄耆3人参3白朮3炙甘草3茯苓2桂枝3陳皮3
効能
益気養血
主治
気血両虚
解説
人参養栄湯は気血を同時に補う効能をもち、五臓すべての虚証に用いることができる処方である。特に慢性疾患の消耗による虚労証の治療に用いられることが多い。
適応症状
◇息ぎれ
肺気の不足により、気を主る機能が低下した症状である。
◇動悸
心気の不足により、血脈を主る機能と神明を主る機能が低下した症状である。動悸にはドキドキすると同時に不安感をともなう意味が含まれている。
◇疲労倦怠感・食欲不振
脾気の不足により、運化を主る機能と筋肉を主る機能が低下した症状である。
◇腰痛
腎気の不足により、骨を主る機能力低下した症状である。
◇面色萎黄
血虚により、栄養機能が低下した症状である。
◇舌淡
気血の不足を示す舌象である。
◇脈細弱
血虛を示す細脈と気虚を示す弱脈がみられる。
人参養栄湯は益気・補血・安神薬によって組成された処方である。「四君子湯」と黄耆によって、補気の効能が増強され、気血化生の源である脾を中心に気虚症状を治療することができる主薬の人参は五臓の気を補い、臓腑の機能を高めることができる。熟地黄、当帰、白芍薬は補血作用によって、臓腑の陰血を補う。この3薬は「四物湯」から活血理気の川芎を除いたものである。五味子と遠志は安神作用と同時に化痰作用をもっているので、気虛による痰湿の停滞(咳嗽、痰)を治療する。さらに五味子はその収斂性により、精気をひきしぬ気、血、津液の流出を防ぐ役割を担っている。遠志は優れた安紳用によって不安感などの精神症状を治療する。陳皮は理気作用によって補益薬が脾胃に停滞することを防ぎ、食欲の増進をはかる。桂枝はその温性により、陽気の運行を改善し、補気の作用を増強しながら冷えなどの症状を治療する。
臨床応用
◇気血不足証
気血の不足症状がみられる諸疾病に広く使用されている。特に慢性疾患の消耗による虚労証(病後や術後の回復期、貧血症、眩暈、疲れやすいなど)に適している。
◇冷え症
桂枝(温通陽気)が配合されているので、疲労、眩暈、動悸など気血不足をともなう冷え症に用いられる。
◇鬱証
憂鬱などの精神的な不安定は、体内の気血を損傷する。元気がない、動悸を感じる不安感が強い、眩暈、健忘症など、気血の不足症状が現れたときに人参養栄湯を用いる。
◎鬱の症状が強いとき+「逍遥散」(疏肝解鬱)
◎不安、不眠があるとき+「酸棗仁湯」(養血・清肝・安神)
注意事項
人参養栄湯は純粋な補益剤であるため、邪気が少ないときに適しており、舌が紅い、苔が黄色く厚い、発熱、便秘などの熱邪が存在する場合には不適当である。