別名:芣苡(ふい)/おおばこ(大葉子)
日本各地、東アジアに広く分布するオオバコ科の多年草、オオバコ(㊥車前Plantagoasiatica)の種子を用いる。中国ではムジナオオバコ(㊥平車前P.depressa)も用いられる。オオバコの全草は車前草(しゃぜんそう)という。果穂が成熟したころに刈り取って、手で揉み風選して種子を集める。なお車前草はおもに花期に採取する。路傍によく生えているため車前の名があり、葉が大きいことから大葉子(おおばこ)という。全草には配糖体のアウクビンやプランタギニン、種子には粘液質のプランタゴムシラーゲAやアウクビン、プランテノール酸、アクテオシドなどが含まれ、プランタギンには鎮咳・去痰作用がある。薬理的には車前草に気道粘液の分泌促進による去痰作用、車前子に利尿作用が認められる。車前草のエキスは鎮咳・去痰薬として医療用にも用いられている(フスタギン)。漢方では利水・通淋・祛痰・止咳・明目の効能があり、排尿障害や膀胱炎、血尿、下痢、咳嗽、多痰、関節痛、結膜炎などに用いる。車前草にも清熱・利水・祛痰・明目の効能があり、同様の症状に用いる。一般に利水作用は車前子、清熱・祛痰作用は車前草が優れている。民間では葉をあぶって腫れ物に貼り、毒を吹き出すのに用いられる。ヨーロッパでも同属のヘラオオバコP.lanceolataやブシリウムP.psylliumの葉をオオバコと同様に肺疾患や膀胱炎に、またそれらの種子を緩下薬として用いている。(サイリウム)
目次
①利尿作用
浮腫や膀胱炎に用いる。腎炎や老人性の浮腫には八味丸に牛膝などと配合する(牛車腎気丸)。膀胱炎、尿道炎には沢瀉・滑石などと配合する(五淋散)。泌尿・生殖器疾患を伴う神経症などには蓮肉・麦門冬などと配合する(清心蓮子飲)。
②清熱作用
眼疾患や種々の炎症などに用いる。結膜炎など目の充血には苓桂朮甘湯に細辛・黄連とともに加味する(明朗飲)。眼脂の多い眼疾患には防風・菊花などと配合する(明眼一方)。膀胱炎や淋病、婦人科疾患、陰部湿疹など下焦の湿熱症状や解毒証体質には竜胆・山梔子などと配合する(竜胆瀉肝湯)。
③止咳作用
痰の多い咳嗽に用いる。炎症性の黄色痰(熱痰)に適し、桔梗・杏仁・黄芩などを配合する。
処方用名
車前子・車前実・炒車前子・炒車前・シャゼンシ
基原
オオバコ科PlantaginaceaeのオオバコPlantagoasiaticaL.、ムジナオオバコP.depressaWild.などの成熟種子。
性味
甘・淡、寒
帰経
肝・腎・肺・小腸
効能と応用
方剤例
清熱利水
八正散・五淋散
湿熱内蘊の水腫・尿量減少・排尿痛・排尿困難・尿が濃いなどの症候に、滑石・木通・山梔子などと用いる。
滲湿止瀉
車前子散
暑温挟湿の嘔吐・下痢・尿量減少などの症候に、香薷・茯苓・猪苓などと使用する。
清肝明目
①車前散
肝熱による目の充血・腫脹・疼痛に、菊花・密蒙花・竜胆草・黄芩などと用いる。
②駐景丸
肝腎不足の視力減退・飛蚊症・角膜混濁・流涙などの症候には、熟地黄・菟絲子などと使用する。
化痰止咳
肺熱の咳嗽・多痰に、杏仁・桔梗・紫菀などと用いる。
臨床使用の要点
車前子は甘淡滑利で、淡で滲利し寒で清熱し降泄の性質をもち、湿熱の邪を清利下行する。清熱利水・滲湿止瀉に働き、清肝明目・止咳化痰の効能を兼ねているので、湿熱内蘊の水腫・小便不利・小便赤渋熱痛・白帯、暑湿泄瀉・目赤昏花・痰熱咳嗽などに適する。
参考
①炒用すると利水止瀉に、生用すると化痰に働く。
②車前子・沢瀉は利水滲湿・泄熱に働くが、車前子は清肝明目・化痰止咳の効能も備えている。
用量
3~9g、煎服。
使用上の注意
①布に包んで煎じる。
②湿熱がないもの・妊婦には禁忌。