別名:藤助防風(とうすけぼうふう)・種防風(たねぼうふう)/ぼうふう(防風)
朝鮮、中国北部から東北部、モンゴルにかけて分布するセリ科の多年草、ボウフウ(㊥防風Saposhnikoviadivaricata)の根を用いる。ボウフウは日本に自生しておらず、日本で防風といえば海辺に自生するハマボウフウ(㊥珊瑚菜Glehnialittoralis)のことをいう。本来のボウフウは江戸時代に中国から生苗が伝えられ、今日にいたるまで奈良県大宇陀の森野旧薬園で栽培されている。これは森野藤助にちなんでトウスケボウフウ(藤助防風)の名でも知られ、また宇田防風、種防風とも呼ばれている。かつて日本ではハマボウフウの根が防風の代用として広く用いられていたが、現在、市場に出ている防風はすべて中国からの輸入品である。ボウフウの成分としてクマリン類のフラキシジンやデルトイン、クロモン類のハマドール、メチルビサミノールが含まれ、エタノールエキスには抗炎症・鎮痛、中枢抑制作用などが認められている。防風とは「風邪を防ぐ」という意味である。漢方では解表・祛風湿・止痛・止瀉の効能があり、感冒、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などに用いる。
一般に止瀉には炒って用いる。中国医学では風寒、風熟、風湿の治療に幅広く用いられているが発汗作用はあまり強くなく、「風薬中の潤剤」ともいわれている。→浜防風
目次
①解表作用
感冒などの熱性疾患に用いる。しばしば荊芥と配合する。感冒などに伴う頭痛や片頭痛には川芎・白芷などと配合する(川芎茶調散)。感冒やリウマチの初期で頭や全身の関節、筋肉が痛むときには羗活・独活などと配合する(羗活勝湿湯)。扁桃炎や咽喉炎で咽が痛むものには連翹・牛蒡子などと配合する(駆風解毒散)。ただし黄耆と配合すると発汗抑制の効果があるともいわれ、汗をかきやすく、感冒に罹りやすい体質を改善する(玉屏風散)。
②消炎作用
湿疹や化膿性疾患に用いる。荊芥・薄荷と配合すれば止痒作用がある。慢性湿疹や皮膚瘙痒症には荊芥・蝉退などを配合する(消風散)。化膿性の皮膚炎や痤瘡には荊芥・桔梗などと配合する(十味敗毒湯清上防風湯)。一貫堂医学でいう臓毒証体質といわれる肥満、高血圧、便秘、皮膚化膿症などの体質に滑石・大黄などと配合する(防風通聖散)。
③止痛作用
関節痛や筋肉痛に用いる。急性の関節炎、筋肉痛、しびれ感に羗活・秦艽などと配合する(防風湯)。やや慢性化した関節痛、筋肉痛には当帰・地黄などと配合する(疎経活血湯)。
④止瀉作用
腹痛を伴う下痢に用いる。ストレスなどによる腹鳴、腹痛、下痢に白朮・芍薬などと配合する(痛瀉要方)。
処方用名
防風・青防風・口防風・炒防風・防風炭・ボウフウ
基原
セリ科UmbelliferaeのボウフウSapo.shnikoviadivaricataSchischkin(LedebouriellaseseloidesWolff)の根および根茎。
日本ではハマボウフウで代用することがあるが、中国では北沙参の原植物であり、区別すべきである。
性味
辛・甘、微温
帰経
膀胱・肝・脾
効能と応用
方剤例
散風解表
①荊防敗毒散・川芎茶調散
外感表証に使用する。
風寒表証の発熱・悪寒・頭痛・身体痛などの症候には、紫蘇・荊芥・白芷などと用いる。
②防風解毒湯
風熱表証の発熱・咽痛・微悪風寒などの症候には、薄荷・連翹・桔梗などを用いる。
③羗活勝湿湯・九味羌活湯
風湿・風寒湿の表証のしめつけられるような頭痛・身体が重だるい・強い関節痛などの症候には、羗活・独活・蒼朮などと使用する。
勝湿止痙
蠲痺(けんぴ)湯・羗活勝湿湯・防風湯
風寒湿痺の関節痛・筋肉のひきつりに、羗活・姜黄・秦艽・川芎などと用いる。
法風止痙
玉真散
破傷風など外風による痙攣・ひきつりに、天南星・天麻・白附子などと用いる。
その他
炒用すると止瀉に、炒炭すると止血に働くので、下痢・不正性器出血などに使用する。
また、散風止痒の効能があるので、風邪による瘙痒にも用いる。
臨床使用の要点
防風は辛甘・微温で、上浮昇散し全身を行って風邪を散じ、「治風通用の薬」である。微温で燥さず甘緩で峻烈ではなく、薬力が緩和であるところから、「風薬中の潤薬」とよばれ、外風表証に風寒・風熱を問わず用いられる。祛風に長じ勝湿にも働くので、湿邪を兼ねる外感風邪に適し、風寒湿瘅の関節痠痛にも効果がある。また、祛風止痒の効能により皮膚痒疹に、祛風止痙の効能により破傷風の痙攣に有効であるほか、脾の鬱火を散じ脾湿を搜除するので口臭・口瘡・痛瀉にも使用する。このほか、炒炭すると止瀉・止血に働き、泄瀉・便血・崩漏に有効である。
参考
①生用(防風・青防風・口防風)すると解表・祛風湿・止痙に、炒用(炒防風)すると止瀉に、炒炭(防風炭)すると止血にそれぞれ働く。
②防風・荊芥は祛風解表に働き、薬力が緩和で麻黄・桂枝ほどの発汗力はないが、荊芥のほうが防風より発汗の力が強く、祛風の力は防風のほうがすぐれており、外感風邪にはよく同時に用いられる。防風は勝湿止痛し、荊芥は散結消瘡する点が異なっている。
用量
3~9g、煎服。
使用上の注意
風寒湿邪が関与しない場合や陰虚火旺には禁忌である。