menu

動悸や息切れに炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

「炙甘草湯は動悸や息切れによく使われます」

処方のポイント

消化墨を補強する炙甘草・人参・大棗、血液を補いからだの潤いを保つ地黄・麦門冬・阿膠・麻子仁、からだを温める生姜・桂皮で構成。拍動を活性化する効能があり、動悸、息切れ、脈拍の不調に適応。疲れやすい、呼吸が浅い、皮膚のカサつき等に応用。甘辛味で温服が効果的。

炙甘草湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

体力が衰えて、疲れやすいものの動悸、息切れ。

漢方的適応病態

心気陰両虚。すなわち、脈の結滞、息切れ、疲労感などの心気虚の症候が主で、動悸、咽や口の乾燥感、眠りが浅い、寝汗、やせる、便が硬いなどの心陰虚の症候を伴うもの。舌質はやや紅で、乾燥して痩せている。舌苔は少なく、脈は結代あるいは細弱。

炙甘草湯の組成や効能について

組成

炙甘草12人参6生地黄10阿膠6麦門冬10麻子仁10桂枝10生姜10大棗10

効能

益気・滋陰・養血

主治

気血両虚

〇益気・滋陰・養血:気血と陰を補う治法である。気は血を生むので、養血法と益気法は併用されることが多い。また、血は陰に属するので、滋陰法を併用することにより、補血作用が増強できる。

解説

炙甘草湯は気血の不足による動悸および不整脈を治療する処方である。主薬の炙甘草にちなんで「炙甘草湯」と名付けられた乱れた脈(不整脈)を回復させる効能があることから、別名「復脈湯」とも呼ばれる。

原文では生地黄の使用量は30g、麻子仁20gとなっているが、胃にもたれるので減量した。

適応症状

◇息ぎれ

気虛、特に肺気の不足によっておこる症状である。

◇動悸

心気が虚して血脈を主ることができず、さらに心血カ健して血脈を充満させることができないためにおこる症状である。

◇心煩・不眠

不足して虚火が上昇し、心の神明を蔵する機能カ攪乱される体内の陰血カ症状である。

◇口渇・便秘

陰血の不足によっておこる症状である。血の組成部分である津液が不足すると、咽喉部や腸管を潤すことができなくなって、口渇や便秘の症状が現れる。

◇舌質淡紅・少苔

淡舌は体内の陰血不足を示す。虚火がある場合は紅舌がみられる。津液が不足すると、舌苔が少なくなる。

◇脈結代

不整脈のことを示す。結脈と代脈はともにゆっくりしていて弱く、間欠する脈であるが、結脈より代脈のほうが間欠時間が長い。気血の不足あるいは気滞血瘀によっておこる脈象である。

炙甘草湯は主に補気と滋陰養血の作用を組合わせた温補の処方である。炙甘草、人参、大棗は補気薬である。炙甘草は主薬で甘味と温性により心気を養い、人参は基礎となる元気を補い(大補元気)、大棗は血も養、3薬は心気を補益すると同時に、後天の本である脾胃の気を補って、知の源を充足することができる。生地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁の4薬は不足している陰血を補益する。生地黄は腎陰を補い、阿膠は主に心血を養い、麦門冬は主に肺陰を補う。麻子仁は滋陰と同時に通便の作用もある。4薬は直接、間接的に心血を補溢し、補気の3薬と協同して不足している気血を温養する。桂枝、生姜は温通の性質をもつ生薬である。特に桂枝は心気を温めて、不通となった血脈を通じさせることができる。炙甘草と配合して心脈を通じさせ、動悸、不整脈など、心の症状に用いることが多い。本来、この処方には白酒が配合されており、酒の温性によって血脈の流れはさらに改善される。

臨床応用

◇不整脈

補益薬が多く配合され、息ぎれ動悸など気血不足の症状をともなう狭心粒、期外収紘心房細動、頻脈などの不整脈に適している。

〇胸悶、胸痛など(5t滞血瘀)のとき+「冠元顆粒」(活血化瘀)

〇苔が厚く黄色い痰がある(湿熱)とき+「柴陥湯」(清肝化痰)

                    または+「竹茹温胆湯」(化痰清熱)

〇神経性の期外収縮があるとき+「加味逍遥散」(疏肝健脾)

◇虚労証

補薬が多く配合されているので、疲労、病後の回復期、結核などの虚弱症状に長期的に用いる。麦門冬(潤肺化痰)と阿膠(止血)か配合されているので、咳嗽、喀血などをともなう慢性肺疾患にも用いられる。

◇脱水症状

炙甘草湯は益氣養陰、補血の作用によって、誤治による発汗過多、日射病の発汗、あるいは慢性病の体力消耗老人性の心機能低下に用いる。

注意事項

作用が比較的穏やかな処方で副作用は少ないが、通便の作用があるので下痢症状がみられるときには不適当である。

脾気を補い湿邪を除去

胃腸が虚弱で下痢しやすい場合などに使用

炙甘草(しゃかんぞう)は、甘草を炙(あぶ)ったものである。甘草が配合される漢方処方は多く、薬局製剤212処方中147処方、全体の69%に甘草が入っている。その役割は、ほとんどの場合、使薬として諸薬の薬性を調和するという比較的地味なものであるが、炙甘草湯においては君薬として重要な役割を果たすことになる。

どんな人に効きますか

炙甘草湯は、「心気陰両虚」証を改善する処方である。

人体の主な構成成分は、気・血(けつ)・津液(しんえき)である。

これを陰陽に分けると、気が陽、血と津液が陰となる。それぞれを称して、陽気、陰血と呼んでいる。この陽気と陰血との陰陽バランスが整っているとき、われわれは健康でいられる。 

しかし、これらの量が少ない場合や流れが悪い場合は、体調を崩し、病となる。五臓の心(しん)において、この両方が不足した状態にある証が「心気陰両虚」である。

五臓の心の機能は、心臓を含めた血液循環(血脈)と、人間の意識や思惟など、高次の精神活動(神志[しんし])をつかさどることである。このうち血脈の機能において陰血が不足すると、血脈が満たされない。また陽気が虚弱になると、拍動を続ける力が弱まる。この結果、脈拍が不規則に、あるいは規則的に乱れ(脈の結代)、動悸が生じる。

陽気虚弱は、心臓のポンプ機能そのものが弱まっている状態である。また陰血不足は、冠動脈を含め、全身を流れる血液量が不足している状態であり、十分な酸素や栄養が心臓に供給されていないことを意味する。ポンプが弱っているのでポンプを養うための陰血がたっぷり欲しいところなのに、実際にはポンプに供給される陰血が不足している。従ってポンプはますます無理して働かなくてはならず、心気はさらに虚弱になる。

心気が不足すると、息切れが生じるちょっと動くだけで、じわりと汗が出てくる(自汗)。疲れやすく、胸苦しさも現れる。一方、心血が虚すと、神志をつかさどる心の機能も低下して、いらいらし、もやもやと落ち着かない不安感、不快感(心煩)が生じる。不眠も現れる。

陰血不足が肺から上に及ぶと、乾咳や喉の渇き、口渇が起こる。陰血不足が腸に至ると便が乾燥し、便秘となる夜は陰がつかさどる時間帯なので、夜に陰血不足で陽が抑えられずに盛んになると、寝汗が出る。皮膚の乾燥や、手足のほてり(煩熱)もみられる。吐く息が熱いと訴えることもある。

舌も乾燥しており、厚みがなく、痩せている。舌の色は白っぽく(気虚や血虚の舌象)、舌苔は少ないか、あるいは付着していない(陰血不足の舌象)。

臨床応用範囲は、心気陰両虚の症候を呈する狭心症、不整脈、心筋炎、心臓神経症、心悸亢進、心臓弁膜症、甲状腺機能亢進症、パセドウ病、貧血、肺結核、自律神経失調症、高血圧などである。

どんな処方ですか

配合生薬は、甘草、生姜、桂枝、人参、地黄、阿膠(あきょう)、麦門冬(ばくもんどう)、麻子仁(ましにん)、大棗(たいそう)の9味である。

君薬の甘草は、あぶった炙甘草を用いる。心の陽気を補う力が強い。気を補う(益気)ことにより、血も生じる。同じく君薬の地黄は、陰血を養う(滋陰養血)、地黄は五臓の不足を補い、血脈を通わせ、気力を増す生薬である。

臣薬の人参は、心の陽気を補い、同時に五臓の脾と肺の気も補い、さらに津液を生じさせる(生津)ことにより、炙甘草を助ける。同じく臣薬の麦門冬は、肺の陰血を補い(養陰潤肺)、心の機能を整え、心煩を取り除き(清心除煩)、地黄を補佐する。阿膠と麻子仁も、臣薬として陰血を補い、血脈を満たす、麻子仁には腸を潤して便通を良くする働きもある。

佐薬の大棗は、心と脾の気を補い、精神を安定させる(安神)、同じく佐薬の桂枝と生姜は温性の生薬で、心の陽気を温めて(温陽)、血脈を通じさせる(温通血脈)、血管拡張作用があり、冠動脈も拡張させる。人参と麦門冬の組み合わせは、滋潤作用を強め、五臓の気を益することができる。生姜と大棗の組み合わせは、胃腸の消化吸収機能(脾胃)を活性化させる。

以上、炙甘草湯の効能を「益気滋陰、温陽復脈」という。諸薬の配合により、陰血が補われて血脈が満たされ、陽気が補われて血脈の機能が回復する。冠動脈を含め、全身を流れる血液量が増え、心臓のポンプ機能が回復し、血液循環が平常の状態を取り戻すのである。気血が充足され、陰陽が調和し、動悸や脈の結代が消えることから、炙甘草湯のまたの名を「復脈湯(ふくみゃくとう)」という。

動悸が強ければ、酸棗仁湯や桂枝加竜骨牡蛎湯を合わせて飲む。

気虚が顕著なら補中益気湯を併用する。冷えが強ければ、人参湯を合わせる。下痢をしている場合には使わない。元来、酒も加えて煎じる処方である。酒には温通血脈作用があり、炙甘草湯の薬力を体内に行き渡らせる役割を果たす。

こんな患者さんに

不整脈で、動悸があります。ときどき胸痛もあります

動悸は、運動とともに現れやすい。脈の結代もみられる。先日は胸痛に見舞われ、病院で心臓肥大と言われた。疲れやすく、息切れしや心気陰両虚とみて炙甘草湯を使用。4カ月後には息切れや疲れやすさはだいぶ改善したが、まだ動悸と胸苦しさが残る。心気虚の改善は進んだが、まだ心虚血が残っていると考えて、処方を酸棗仁湯に変えたところ、その2カ月後には動悸も消失した。

バセドウ病です病院で治療中ですが最近、症状が出ます

病院でバセドウ病の内服治療を長く続けている。最近、また動悸がするようになった。疲れやすく、検査値もよくない。

心気陰両虚とみて炙甘草湯を使用、3カ月後には動悸が治まり、処方を桂枝加竜骨牡蛎湯に変更。8カ月後には検査値もほぼ正常化した。

炙甘草湯がバセドウ病に使われることは多いようだが、特効薬ではない。先入観にとらわれず、患者の証を正確に判断することが重要である。

用語解説

1)気・血・津液は、人体の基本的構成成分。気は生命エネルギー、血は血液や栄養、津液は正常な水液に相当する概念。気、血、津液が多からず少なからず、適量、さらさらと体内を流れていれば、人は健康である。

2)中医学において、臓腑(五臓六腑)は、様々な生理機能だけでなく、情緒、意識活動をも含む概念であり、単に解剖学的な内臓のみを指すのではない。臓には心・肺・脾・肝・腎の五つがあり(五臓)、気や血を生成したり貯蔵したりする機能を持つ。例えば五臓の心は、本文中にあるように、血脈と神志をつかさどる機能であり、心臓という臓器のみを意味するのではない。

3)結代は、結脈と代脈の総称。結脈は、脈拍が遅く、脈の欠損や期外収縮が不規則に起こる状態。代脈は、脈拍が遅く、脈の欠損や期外収縮が規則的に起こる状態。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

*

ピックアップ記事

  1. 2017-4-4

    憂鬱・不安感がある方に効果的な漢方薬4種

    原因が考えられない場合が問題 気分が重くて暗いのが、憂鬱感である。そして、精神に安定を…
  2. 2017-3-2

    生理不順に効果のある9種類の漢方薬

    生理不順は女性の宿命的な苦しみ 生理不順、生理異常、あるいは月経異常といわれるものには…
  3. 2017-2-28

    【求人】国際統合治療協会が薬剤師を募集

    国際統合治療協会では薬剤師の資格を生かして、クリニックにて四診を用いて体質におけるアドバイスを 行っ…
  4. 医者

    2017-1-27

    漢方医学の基礎、基本的な考え方とは

    漢方医学の基本的な考え方には、液体生理学、液体病理学といわれる「気・血・水」「五臓六腑 」「経絡」「…
  5. 2017-1-18

    冷え性チェック!体質から漢方的に自宅でできる改善方法を紹介

    舌でわかる!冷え性体質チェック ビールを飲みすぎた翌日に、舌のコケが厚くなったり、風邪をひいた…
ページ上部へ戻る