腹痛の場合のチェックポイント
腹痛は消化器(広義には食道から肛門まで含まれる)の病気だけではなく、腎臓や尿路の病気、女性なら生殖器の病気まで含む広範囲な症状である。それだけに、ひと口に「お腹が痛い」といっても、痛む部位や質、あるいは他の症状とのからみ方を分析してみなければならない。
次に、そのチェックポイントをあげておこう。
①熱をはかる。寒け・ふるえも確かめる。
②吐きけがある場合は、吐いたものに血がまじっていないか、食物のこなれぐあい、どんな色をしているか、などを確かめる。できれば、吐いたものを医師にみてもらうのがよい。
③便の状態をみる。とくに、子どもは表現能力がないから、痛みの質がわからず、便は重要な判断材料だ。下痢をしていないか、ふつうの便よりやわらかい程度か、あるいは水のようにゆるいものか、便の色はどうか、血はまじっていないか。
④痛む場所(腹全体か、みぞおち中心か、へその辺りか、右上腹部中心か、左上腹部中心か、わき腹か、膀胱の辺りか)、痛みの質(はげしいものか、冷や汗が出るようなものか、シクシクという感じか)、痛みの経過(突然か、食事との関係はどうか、同じような痛みが長くつづくか)などを調べる。
以上を確認したうえで、医師に連絡する。
考えられる病気としては、ここでは、一般的な消化器の病気だけをあげることにする。
お腹が痛い時に考えられる病気
急性胃炎の症状
おもに、胃に鈍痛を覚え、重くるしい感じである。ふつう、気分がわるくなる・むかむかと吐きけがする・食欲がなくなる・嘔吐するなどの症状がある。大人では、一般に熱はない。嘔吐がひどくなり、下痢をするようだと、たいてい腸炎も併発している。
胃・十二指腸かいようの症状
胃部の痛み・嘔吐・吐血・下血がおもなものである。痛みは、食事と関係していることが多く、食後三〇分ぐらいで起きるなら胃かいよう(潰瘍)、空腹時なら十二指腸かいようと考えてよい。夜中に痛みが起きることもある。部位はみぞおちを中心に、左上腹部のことが多いが、かいようが深くなってくると、背中や肩にまで痛みを感じることがある。
急性腸炎の症状
急に下痢が起こり、痛みをともなうことが多く、はげしければ発熱・嘔吐・頭痛などが起こる。起こる部位によって、症状はややちがい、小腸炎では食欲不振・発熱・へそ付近の痛み・舌苔などが多く、大腸炎ではさらに、しぶり腹・左下腹部の痛み・粘液血便などが加わることがある。
胆のう炎の症状
急性のものは、発作的にみぞおちから右上腹部に痛みが起こり、吐きけ・嘔吐があり、発熱する。痛みはかなりはげしいもので、しばしば右背部、右肩へと痛みが放散する。熱は三八度から三九度に上がり、寒けやふるえをともなう。反射的に腸の運動が減退するため、便秘することもある。慢性のものは、持続的に右上腹部がシクシクと痛むのが特徴だ。
胆石症の症状
激痛・発熱・黄疸が三大症状である。痛みは、へその右上の部分に強烈に起こり、患者は七転八倒するほどの苦しみを経験する。俗に「胃けいれん」とか「癪」とよばれるもので、顔面蒼白となり、全身にあぶら汗を流す。
漢方は消化器の病気にはよく効く
腹痛を起こす病気には、しばしば重大なものが含まれているので、必ず医師の診察を受ける。たびたび発作をくりかえす人や、原病がはっきりわかっている場合は、医師と相談のうえ、次の処方を用いると著効をみることがある。まず、胃炎・胃かいよう・十二指腸かいよう・腸炎の場合。
お腹が痛い時に効く漢方薬
黄連湯(おうれんとう)
胃痛・圧迫感・嘔吐・口臭・舌苔・食欲不振があり、腹は緊張していて力があるもの。
半夏瀉心湯
胃痛は軽度で、食欲不振・吐きけ・嘔吐・下痢があり、みぞおち辺がつかえる人に。
大柴胡湯
胸が苦しく、みぞおちのつかえと抵抗があり、吐きけ・嘔吐・便秘があり、口が乾いて、舌に黄色の苔がみられるもの。
柴胡桂枝湯
右より元気なく、腹痛のある人に。
平胃散(へいいさん)
急性の消化不良に一般的に用いる。
五積散(ごしゃくさん)
胃腸の弱い人の急性胃炎に一般的に。
安中散(あんちゅうさん)
胃に停水があって、甘味好きで、へその辺りに動悸があり、痛み、胸やけするものに。
三黄瀉心湯
体力があり、痛みと出血が長くつづき、便秘している人の止血によい。
黄芩湯(おうごんとう)
下痢して、みぞおちがつかえ、腹痛がして、泥状便・粘液便が出るときに用いる。
胆のう炎・胆石症には、胸脇苦満(前述参照)があるのが特徴で、柴胡剤を用いる。
小柴胡湯
微熱があったり、悪寒や発熱をくりかえし、胸がつまって苦しく、みぞおちがかたく緊張し、口が乾き、食欲不振のものに用いる。
柴胡桂枝湯
右よりも腹筋が緊張して敏感で、痛みをともなうものによい。
柴胡桂枝乾姜湯
症状が長びいて、体力が弱まり、脈も腹もあまり緊張がなく寝汗をかき、大便もやわらかく、舌苔もなく乾燥するときに。
大柴胡湯
体力が充実し、便秘がち、胸苦しく、舌苔があり、乾燥する人に用いる。
大柴胡去大黄湯
上の症状で、便秘しない人に。
芍薬甘草湯または芍薬甘草附子湯
痛みの発作のさいの鎮痛剤に。これは柴胡剤ではない。
お腹が痛くなったときの応急処置
衣服をゆるめ、枕を低くして、横にさせる。ふつう腹と手足はあたためたほうがよいが、吐血や下血があれば、みぞおちの辺りを冷やす。
吐きけがある場合は、頭を横に向けて、吐いたものが気管にはいらないように注意する。下痢している場合は、ぬるま湯・果汁などで水分の補給を。むやみに鎮痛剤を使用してはいけない。
民間療法
野菜のゴボウのおろし汁が効く。盃に一杯ぐらい。ブタのきも(胆のう)もよい。
ゲンノショウコ二〇グラムを一日量とし、濃く煎じた熱いものを、吹きながら飲むのもよい。