別名:全胡/のだけ(野竹)
本州の関東以西、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するセリ科の多年草、ノダケ(㊥紫花前胡Angelicadecursiva)などの根を用いる。日本にみられるノダケは紫色の花をつけるが、中国では白い花をつける白花前胡A.praeruptorumもあり、薬用にはおもに白花前胡を用いている。現在、日本産の前胡は市場性がない。ノダケの根にはフロクマリンのノダケニンやデクルシン、精油成分のエストラゴール、リモネンなどが含まれ、抗炎症、抗浮腫作用などが知られている。漢方では解表・止咳・祛痰の効能があり、熱性病(風熱)による頭痛や気管支炎に用いる。頭痛や発熱、咳嗽、鼻炎などの感冒症状には蘇葉・葛根などと配合する(参蘇飲)。化膿症の初期で悪寒、発熱、頭痛のみられるときには荊芥・防風などと配合する(荊防敗毒散)。また気管支炎などで粘稠な痰が多く、呼吸が苦しいときには紫蘇子・半夏・陳皮などと配合する
(蘇子降気湯)。前胡と杏仁はいずれも祛痰薬として用いるが、前胡は炎症性の粘稠痰(熱痰)、杏仁は白い希薄な痰(寒痰)に適している。
処方用名
前胡・嫩前胡・粉前胡・炙前胡・ゼンコ
基原
セリ科UmbelliferaeのPeucedanumpraeruptorumDunn、ノダケP.decursivumMaxim.などの根。
性味
苦・辛、微寒
帰経
肺
効能と応用
方剤例
降気消痰
前胡散
肺熱の咳嗽・黄色で粘稠な痰・胸苦しいなどの症候に、杏仁・桑白皮・貝母などと用いる。
宣散風熱
二煎湯
風熱表証で咳嗽・多痰・呼吸促迫・咽痛などを呈するときに、桑葉・薄荷・牛蒡子・白前などと用いる。
臨床使用の要点
前胡は苦辛・微寒で、苦で降気消痰し辛で宣肺疏風し寒で清熱するので、疏散風熱・祛痰止咳の常用薬である。肺熱・肺気不宣の痰稠喘咳脹満や風熱外感の咳嗽喘満に有効であるが、肺熱兼表証にもっとも適している。
参考
①生用(前胡・嫩前胡・粉前胡)が一般であるが、蜜炙(炙前胡)すると潤肺・降気化痰に働く。
②前胡・杏仁は降気が主体で疏散の性質をもつが、前胡は涼性で降気消痰・散風清熱に偏し、杏仁は温性で降気止咳平喘・散寒に偏する。
③前胡・柴胡は発散に働き、散風解熱に配合されるので、「二胡は風薬たり」と称される。前胡は肺経に入り下降を主るのに対し、柴胡は肝胆経に入り上昇を主る。
用量
3~9g、煎服。
使用上の注意
陰虚火旺および寒飲咳嗽には用いない。