別名:南星(なんしょう)・虎掌(こしょう)/まむしぐさ(蝮草)
サトイモ科の多年草、マムシグサ(㊥鬼蒟弱Arisaemaserratum)やウラシマソウA.thunbergiissp.urashimaなどの同属植物の塊茎を用いる。中国産の基原植物には天南星A.consanguineum、ヒロハテンナンショウ(㊥東北天南星A.amurense)、マイヅルテンナンショウ(㊥異葉天南星A.heterophyllum)などが挙げられている。これらはいずれもマムシグサに似た花が咲くが、葉の形はそれぞれ異なっている。花序は仏焰苞といわれる独特の筒状の中にあり、同科のカラスビシャクなどと共通している。マムシグサは日本各地、朝鮮半島、中国に分布し、偽茎の模様がマムシの文様に似ていることからその名がある。ウラシマソウも日本各地に分布し、その名は花序の付属体が細長く延びて垂れ下がるのを浦鳥太郎の釣り糸に見立てたものである。『神農本草経』には虎掌という名で記載しているが、これは葉の形に由来する。生の球茎にはコニインに類似した有毒成分が含まれ、食べると強烈な刺激がある。そのほかの成分としてトリテルペンサポニンや安息香酸なども含まれ、鎮静作用、去痰作用、抗腫瘍作用が報告されている。一般に加工していない天南星を湯液に用いるときには生姜を配合して十分に煎じることが必要である。修治したものには、晒した天南星に新鮮な生姜を加えて炮製した製南星(せいなんしょう)、晒した天南星の粉に牛の胆汁を混ぜて製した胆南星(たんなんしょう・別名:胆星)などがある。漢方では燥湿化痰・止痙の効能があり、眩暈、麻痺、痙攣、ひきつけなどに用いる。天南星は半夏と同様に燥湿化痰の代表薬であるが、半夏が胃腸の湿痰を除くのに対し、天南星は経絡の風痰を治療するといわれている。この風痰とは脳卒中や癲癇の病態と考えられている。民間では生の塊茎をすりおろして酢を混ぜ、腫れ物や肩こり、乳房の腫れなどに外用する。
目次
①去痰作用
痰が多く、胸部苦悶感のあるときに用いる。咳嗽があり、痰が薄くて多い(寒痰)ときには肉桂・半夏と配合する(姜桂丸)。慢性気管支炎などで痰が粘稠で呼吸困難や胸部苦悶感があるときには杏仁・枳実などと配合する(清気化痰丸)。
②向神経作用
意識障害や麻痺、神経痛、筋肉痛などの症状に用いる。脳卒中などで意識障害や麻痺があり、咽に痰が絡んでいるときには半夏・陳皮などと配合する(導痰湯)。肋間神経痛で背中の一部に痰湿による冷えのみられるときには茯苓・半夏などと配合する(清湿化痰湯)。五十肩や頸腕症候群による関節痛に羗活・威霊仙などと配合する(二朮湯)。陳旧化したリウマチで関節の変形のみられるときには附子・防風・羗活などと配合する(舒筋立安散)。破傷風で痙攣のみられるときには全蝎・白僵蚕などと配合する(五虎追風湯)。
処方用名
天南星・南星・生南星・製南星・テンナンショウ
基原
サトイモ科Araceaeのテンナンショウ属植物ArisaemaconsanguineumSchott、A.amurenseMaxim、その他同属植物の塊茎。
性味
苦、辛、温、有毒
帰経
肺・肝・脾
効能と応用
方剤例
燥湿化痰
①導痰湯・滌痰湯・白朮丸
頑痰・湿痰による咳嗽・多痰・胸が脹って苦しいなどの症候に、半夏・枳実茯苓などと用いる。
②姜桂丸
寒痰の咳嗽・うすく多量の痰には、半夏・生姜・肉桂などと使用する。
③小黄丸
肺熱で多痰を呈するときは、黄芩・半夏などと使用する。
祛風解痙
①青州白丸子・定癇丸
風痰によるめまい・半身不随・顏面神経麻痺・四肢のしびれなどに、半夏・白附子などと用いる。
②玉真散・五虎追風湯
破傷風の痙攣・牙関緊急・項部強直などの症候に、防風・天麻・全蝎・蜈蚣などと使用する。
解毒消腫
瘡癤癰腫(皮膚化膿症)・瘰癧痰核(リンパ節腫・しこり)に、生南星を醋とともにすりつぶした汁を塗布する。
毒蛇の咬傷に、鮮南星を搗き砕いて湿布するか、生南星と雄黄の粉末を白酒で調製して湿布する。
臨床使用の要点
天南星は苦温辛烈で、開泄走竄して強い燥湿の効能をもち、肺・脾の湿痰を除くだけでなく、肝経に入って経絡の風痰を除去し解痙に働く。中風痰壅や風痰による肢体麻痺・眩暈・驚癇・口眼喎斜、破傷風による四肢抽搐・口噤・項強、湿痰による咳嗽喘満多痰に有効である。このほか、生を外用すると解毒消腫の効果があり、癰腫瘡毒・痰核・蛇咬などに用いる。
参考
①胆南星は天南星を牛の胆汁で製したものであり、性味が苦涼で燥烈の性質が大幅に減り、清化熱痰・熄風定驚の効能に変化している。
②天南星・半夏は燥湿化痰に効く。半夏は脾胃の湿痰のみを理し、止嘔消痞に働き「内守」の意義をもつ。天南星は辛散がはるかに勝り、肝経に入って経絡の風痰を除く。脾胃に属する湿痰には半夏を主体に天南星で補佐し、風痰には天南星を主体に半夏で補佐するのがよい。
用量
3~9g、煎服。外用には適量。
使用上の注意
①生を外用する以外は、一般に製南星を使用する。炮製の方法は半夏と同様である。
②燥烈有毒で傷陰堕胎しやすいので、熱極生風・血虛生風・陰虚咳嗽および妊婦には禁忌。