葛根(かっこん)は日本各地、東アジアに広く分布するマメ科のつる性木本、クズ(㊥葛Puerarialobata)の根を用いる。クズの花を葛花(かっか)、クズの根からとれるデンプンを葛粉(かっぷん)という。根に多く含まれるクズデンプンは食用としても葛湯や葛餅、葛切り、葛粉などの原料として用いられている。葛粉の作り方はクズの根を洗って外皮を除き、つぶして水に浸して粥状にし、滓を布でこして得られた粗デンプンを水槽に入れて沈澱させ、上澄み液を捨てる。このような精製の行程を繰り返し、最後に残った白色の沈澱物を乾燥させて固めたものが葛粉である。日本では奈良県の吉野葛(よしのくず)、福岡県の秋月葛(あきずきくず)が有名である。ただし市販されている「くず粉」のほとんどは小麦やサツマイモなどのデンプンである。根にはデンプンのほかにダイジン、ダイゼイン、プエラリンなどのイソフラボン誘導体などが含まれ、解熱、鎮痙、降圧、消化管運動亢進作用などが知られている。漢方では解肌・透疹・潤筋・止渇・止瀉の効能があり、頭痛や肩こりなどの感冒症状、麻疹、筋肉の緊張、口渇、下痢などに用いる。そのほか中国では高血圧の随伴症状や狭心症、片頭痛、突発性難聴などにも応用されている。民間でも葛デンプンに砂糖を加えて溶かしたものを葛湯(くずゆ)と呼んで風邪の初期や腹痛に用いている。→葛花
目次
①発散作用
感冒や急性炎症に解表薬として用いる。とくに項背部が緊張し、頭痛や鼻炎症状のあるものに麻黄・桂枝と配合する(葛根湯)。蓄膿症や慢性鼻炎には辛夷などと配合する(葛根湯加辛夷川芎)。中耳炎には桔梗・石膏などと配合する(葛根湯加桔梗石膏)。
②透疹作用
発疹や皮膚疾患に用いる。麻疹などの初期で発疹の出かたが悪いときには升麻と配合する(升麻葛根湯)。蕁麻疹や皮膚化膿症にも葛根湯がしばしば奏功する。
③筋弛緩作用
おもに肩こりや背部痛に用いる。肩背部の筋肉のこりや五十肩などの疼痛、麻痺に独活・地黄などと配合する(独活葛根湯)。
④止瀉作用
急性の下痢に用いる。急性腸炎や小児の疫痢様下痢に黄連・黄芩と配合して用いる(葛根黄芩黄連湯)。
処方用名
葛根・粉葛根・乾葛根・煨葛根・粉葛・乾葛・カッコン
基原
マメ科LeguminosaeのクズPuerarialobataOhwiの周皮を除いた根。
このものは日本産で、中国産はその変種のシナノクズP.lobataOhwivar.chinensisOhwiまたはP.pseudo-hirsutaTangetWangに由来し、日本産が繊維質であるのに対して中国産は粉質である。
性味
甘・辛、凉
帰経
脾・胃
効能と応用
方剤例
解肌退熱
葛根湯・柴葛解肌湯
外感表証の発熱・無汗・頭痛・項背部のこわばりなどの症候に、悪寒が強い表寒証では麻黄・桂枝などと、発熱・咽痛が強い表熱証では柴胡・黄芩などと用いる。
透疹
升麻葛根湯
麻疹の初期あるいは透発が不十分なときに、升麻・赤芍などと用いる。
生津止渇
麦門冬飲子
熱病の口渇や消渇などに、麦門冬・天花粉などと使用する。
昇陽止瀉
①七味白朮散
脾虚の泥状~水様便に、党参・白朮・茯苓などと用いる。
②葛根黄芩黄連湯
熱痢すなわち炎症性の下痢に、黄芩・黄連などと使用する。
臨床使用の要点
葛根は甘潤・辛散で偏涼であり、軽揚昇散の性質をもち、脾胃二経に入って主に陽明に作用し、陽明は肌肉を主るので解肌退熱・透発斑疹に働き、さらに胃中の清気を鼓舞上行して津液を上承させ、筋脈を濡潤(じゅんじゅん)して孿急を解除し、生津止渇・止瀉の効能をもたらす。それゆえ、表証の発熱・無汗・頭痛・項強に対する主薬であり、斑疹不透・熱病口渇・消渇などに適する。ただし、発汗の力は強くなく解肌退熱にすぐれているので、邪鬱肌表の身熱不退には口渇・不渇あるいは有汗・無汗を問わず使用するとよい。
参考
生(生葛根・粉葛根・乾葛根)で用いると解肌・透疹・生津に、微黄に炒す(煨葛根)と止瀉に働く。
用量
6~15g、煎服。
使用上の注意
表虚多汗や斑疹が透発したときには用いない。