歯肉や周囲の組織の炎症
歯の組織そのものには痛覚がなく、俗に歯が痛いという訴えは、いずれの場合も、歯肉や周囲の組織が炎症を起こしたためである。たとえば智歯難生症(ちしなんせいしょう)、つまり親しらずははげしい痛みをともなうが、歯肉に炎症を起こしているのである。
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歯が痛いときに考えられる病気
いちばん多いのは、むろんむし歯である。むし歯で痛むものを歯髄炎(しずいえん)というが、熱いものや冷たいものが歯にしみるようになったときが要注意である。
歯根膜炎(しこんまくえん)も進行すると、ひどく痛む。これは歯が浮いたような感じがするもので、慢性化すると歯がぐらぐらするようになる。
歯槽膿漏も、重症になると歯痛を感じる。この段階では、すでに歯ぐきの色がわるくなっており膿が出るようになっているはずだ。
漢方は補助的な療法にしかすぎない
歯が痛むときは、のちに述べる応急処置をして必ず歯科医の根本的治療を受けることが必要である。漢方は、全身症状があるようなときの補助的なものにすぎず、併用手段と考えるべきだろう。
まず、むし歯と歯根膜炎の処方について記載します。
歯が痛いときの漢方薬
葛根湯
自覚症状の起こりはじめに用いる。頭痛・肩こりなどをともなう場合によい。
桂枝五物湯
歯痛のある場合に一般的に用いる。
桃核承気湯
のぼせ・肩こりをともない、便秘の傾向があるものに用いて、効果があることも。
次に歯槽膿漏のための処方です。
白虎湯
熱っぽくて、のどがよく渇く人に。
桃核承気湯
のぼせ・肩こりなどがあり、便秘がちな人。歯ぐきが紫色にはれているものに。
防風通聖散
太鼓腹の肥満体で、便秘の人に。とくに肉食過多で起こった場合の体質改善によい。
十全大補湯
衰弱・貧血がいちじるしい人に。
八味丸
糖尿病に併発したものに用いる。
排膿散
経過が長びいて、膿汁が出ているものに用いる。他の処方と兼用してもかまわない。
歯が痛むときの応急処置
すぐ歯科医にみせるのが最良の方法だが、夜中に痛み出したり、予約がまにあわないような場合は、次の方法をとる。
むし歯の場合には、まず歯の間につまった食物カスをとり清潔にするため、よくうがいをする。できれば、ぬるま湯に重曹(じゅうそう)をひとつまみ入れたものがよいが、ぬるま湯だけでもよい。
なお痛むようなら、外用の歯痛薬(今治水(こんじすい)などの石炭酸系鎮痛剤)を用いる。むし歯の両側に脱脂綿をはさみ、ツバがはいらないようにしてからむし歯内のツバを小さな綿球でそっと押さえるようにしてとる。そして、ごく小さな綿球に薬液をつけて穴の中に入れ、その上から脱脂綿をかるく押さえておく。内服鎮痛剤は医師の指示を待つ。
歯根膜炎でほおがはれあがる場合は、冷湿布。
民間療法
ダイコンのおろし汁を脱脂綿にたっぷりしみこませ、痛む歯の反対側の耳にたらしこむのがよく効くというのが、長塩容伸先生の説。
サンショウ(蜀椒(しょくしょう))の果皮を一個分、痛む歯の上にのせ、かるくかみしめるのもよい。
スズメバチの巣(露峰房(ろほうほう)) の粉末を、歯みがき粉がわりに用いると、歯槽膿漏のはれがひく。